「4月~6月に残業しすぎると損をする」という話、聞いたことはありませんか? これには、標準報酬月額と社会保険料が深く関係しています。本記事では、社会保険料を算出する仕組みから、4月~6月の残業増加によって手取り給与が減ってしまう訳について、それは本当に損になるのか、メリットはないのか?、詳しく解説します。
「標準報酬月額」とは?
法定労働時間を超えて労働すれば、時間外手当(=残業代)が支払われ、給与が増えます。しかし「4~6月に残業しすぎると損をする」とは、よく言われること。これには、給与から天引きされる社会保険料を算出する際の根拠となる「標準報酬月額」が深く関わっています。
標準報酬月額 | 社会保険料を決定する際の基準となる金額のこと |
標準報酬月額とは、健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料のほか、傷病手当金や出産手当金など保険給付額の算出根拠になるものです。被保険者(従業員)が受け取る給与を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定します。
給与明細には、基本給や残業代など諸手当の合計である「総支給金額」(額面)と、社会保険料や税金などが天引きされた「差引支給額」(手取り)が記載されています。
標準報酬月額を決める際の給与は、基本給のほか諸手当を含めた税引き前の「総支給額」を指します。臨時的なインセンティブ、お祝い金などは含みません。
標準報酬月額(保険料額表)の見方
全国健康保険協会「保険料額表(東京都)」を例に見てみましょう。
「等級」の右隣「月額」の欄が「標準報酬月額」です。例えば、給与が295,000円の場合、報酬月額「290,000~310,000」の区分に該当し、「標準報酬月額」は300,000円となります。
「標準報酬月額」によって、それぞれの保険料額が決められています。基本的に社会保険料は労使折半(会社と従業員で半分ずつ支払う)のため、「折半額」の欄が給料から天引きされる保険料額となります。
例えば、「標準報酬月額」300,000円の方が、40歳未満(介護保険第2号被保険者に該当しない年齢)の場合、健康保険料は月額15,000円、厚生年金保険料は月額27,450円、これらが毎月の給料から天引きされるのです。
【出典】全国健康保険協会「令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)」
社会保険の仕組み
前項では「標準報酬月額」に基づいて社会保険料が算出されることをご説明しました。この項では、社会保険の種類と保険料の計算方法について、解説します。
社会保険の種類と計算方法
給与から引かれる社会保険には、「健康保険」「介護保険(40歳以上)」「厚生年金保険」「雇用保険」の4種類があります。
【給与から引かれる社会保険料と計算方法】
・健康保険料 : 標準報酬月額 × 健康保険料率
※健康保険料率は、加入している健康保険(組合健保・協会けんぽ・各種共済組合)と、住んでいる地域によって異なるため、自身の加入している健康保険組合のホームページを確認してみましょう。
・介護保険料 : 標準報酬月額 × 介護保険料率
※第2号被保険者である40歳~64歳までの従業員が加入
※介護保険料率は健康保険料率と同じく、健康保険組合の種類と地域により異なります。
・厚生年金保険料 : 標準報酬月額 × 厚生年金保険料率(9.15%)
※厚生年金保険料率は 18.3%(平成29年9月より固定)ですが、労使折半のため給与から天引きされる額を求める場合は、18.3% ÷ 2 = 9.15% です。
・雇用保険料 : 毎月の給与支給額 × 雇用保険料率
※雇用保険料率は、「一般の事業」「農林水産・清酒製造の事業」「建設の事業」のいずれに該当するかにより異なります。一般の事業の場合、給与から天引きされる額を求める場合は 0.6%(令和5年度)です。
【出典】厚生労働省:「令和5年度雇用保険料率のご案内」
4種類の社会保険のうち、保険料を算出する際に「標準報酬月額」を使うものは、「健康保険」「介護保険(40歳以上)」「厚生年金保険」の3つです。
標準報酬月額が決まるタイミング
では、標準報酬月額はいつ決まるものなのでしょうか。そのタイミングは、大きく分けて「資格取得時決定(入社時)」「定時決定」「随時改定(昇給など大幅な変更があった場合)」の3つで、基本的には年1回の「定時決定」において決められます。
・「定時決定」
雇用される事業所において、毎年7月1日に算出します。算出するには、その年の4~6月の3カ月間の給与(総支給額)の月平均額を求めます。ここで算出された標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの1年間使用します。
つまり、4~6月の給与額によって、その年9月から1年間の保険料が決定するということです。
【計算方法】
報酬月額 = その年の 4・5・6月(※)に支払われた報酬総額 ÷ 3
※各月とも支払基礎日数17日以上、特定適用事業所に勤務するパート・アルバイトなどの短時間労働者は支払基礎日数11日以上
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残業と社会保険料の関係性
「標準報酬月額」を算出する際に根拠となる‟給与”は、諸手当を含む総支給額です。給与の総支給額に含まれる諸手当の中で、毎月変動する可能性のあるものは「残業手当」でしょう。
つまり、4月・5月・6月の残業が多ければ、その分残業手当が増え、総支給額が上がります。これによって、標準報酬月額も上がるというわけです。
残業手当は翌月払いとしている企業もあるため、この場合は3月・4月・5月の残業が多いと標準報酬月額が上がることになります。
先にも述べましたが、標準報酬月額は、その年の9月から翌年8月までの1年間使用するものです。標準報酬月額が上がれば、健康保険料、介護保険料(※40歳以上の場合)、厚生年金保険料が上がるので、結果として9月からの手取りが減ってしまうのです。
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4月~6月の残業増、実はメリットも!
4月~6月の残業が増えると、結果として標準報酬月額が上がり、9月からの手取りが減ってしまうことが分かりました。これは一見すると損をしているように感じるかもしれません。
しかし、標準報酬月額が上がることによって得られるメリットもあるのです。それは、標準報酬月額によって決まる保険給付額と厚生年金の受給額です。具体的な例をご紹介します。
傷病手当金が増える
傷病手当金とは、病気やケガで会社を休んだ場合に、休業中の生活を保障してくれる保険です。支給期間は、支給開始日から通算して1年6カ月です。
支給日額は、「支給開始日以前の継続した12カ月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 3分の2」。つまり、標準報酬月額が高ければ、受給できる傷病手当金が増えることになります。
出産手当金が増える
出産手当金は、女性被保険者が出産のために仕事を休んでいた期間の生活費の一部として支給されます。支給日額は、「直近12カ月間の標準報酬月額平均額 ÷ 30日 × 3分の2」です。 この場合も、標準報酬月額が高い方が受給できる出産手当金は多くなります。
各種厚生年金が増える
厚生年金の加入者が受け取れる老齢厚生年金、障害厚生年金、遺族厚生年金は、いずれも加入期間中の標準報酬月額をもとに年金額が計算されます。
標準報酬月額の高い期間があれば、その分算出される年金額が増えるのです。
万が一のケガや病気、出産というライフイベント、将来への備えとして、大きなメリットと言えるでしょう。
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労務担当者の心がけ
会社員の場合、毎年「定時決定」によってその年の9月から翌年8月までの標準報酬月額が決まります。その際、算出の根拠となるのが4月・5月・6月の給与です。この3カ月間の残業手当が増えると、標準報酬月額が上がり、結果として9月からの手取りが減ることになります。
しかし、標準報酬月額が上がれば、健康保険から給付される傷病手当金や出産手当金、あるいは各種厚生年金の受給額が増えるというメリットもあることを覚えておきましょう。
企業の労務担当者にできることとして、4月~6月の期間だけ残業を減らす方策をとることは、法の観点で言えば望ましいものとは言えません。また、これは従業員のモチベーション低下につながる可能性も含んでいます。
企業にとって肝心なことは、常日頃から従業員が長時間労働にならないかを意識したり、業務効率化を図り、残業時間を削減することによって生産性の向上につなげていくことと言えるでしょう。
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