契約業務には従来、製本や印紙代、郵送費等のコストがかかっていましたが、電子契約に切り替えることで、これらを大幅に削減できるようになりました。この電子契約サービスでは、「電子署名」のほかに、「タイムスタンプ」を付与した電子ファイルが利用されています。当記事では、そもそもタイムスタンプとは何か、どのような仕組みで成り立つものなのかを解説します。また、電子帳簿保存法の改正によりタイムスタンプが不要となるケースについてもご説明します。
電子契約におけるタイムスタンプとは
タイムスタンプとは、電子的な時刻証明書のことです。対象の電子データがスタンプによって記載される時刻に確実に存在していたことを証明します。
紙データ | 書類に記された日付や担当者の捺印、紙の状態などから、保管されていた期間や場所を推測でき、改ざんが行われたかどうかを検証することが可能 |
電子データ | 筆跡や紙の状態での判断ができないため、紙のデータと比較すると複製も改ざんも容易 |
タイムスタンプを付与すると、
①付与時点で確かにデータが存在したこと
②付与後にデータが改ざんされていないこと
の2つを証明することができます。
タイムスタンプで電子文書の「原本性」が証明できる
電子契約において、電子署名だけでは、本人による署名であることは証明できても、その文書が「いつ」から存在し、「いつ」の段階から改ざんされていないのか、その日時(=タイム)を証明することは困難です。そのため、電子署名(=本人性の証明)に併用してタイムスタンプを付与すること(=時刻の証明)によって、電子文書の「原本性」を証明することが可能になります。これがタイムスタンプの付与が推奨される理由です。
誰が | いつ | |
電子署名 | ○ | × |
タイムスタンプ | × | ○ |
電子文書にタイムスタンプを付与する方法
電子文書(ファイル、データ)にタイムスタンプを付与する流れについてご説明します。
タイムスタンプの付与要求
タイムスタンプの利用者が電子文書、データのハッシュ値を生成し、第三者機関であるTSA(Time-Stamping Authority/時刻認証局)に送付する。
タイムスタンプの付与
TSA(時刻認証局)がハッシュ値および時刻情報を結合したタイムスタンプを利用者に返送する。
タイムスタンプの付与検証
利用者は自身で生成したハッシュ値と、TSA(時刻認証局)が生成したタイムスタンプに含まれるハッシュ値を比較する。これにより、電子文書が改ざんされているかどうか検証可能になる。
つまり!
電子署名で「誰が」「何を」を証明し、
タイムスタンプで「いつ」「何を」を証明する
電子帳簿保存法の改正でタイムスタンプが不要になるケース
ここまではタイムスタンプの仕組み、推奨される理由についてご説明してきました。タイムスタンプを利用するシーンは、電子契約業務だけでなく、経理業務にも関係しています。中でも、「電子帳簿保存法(電帳法)」に関わる書類の作成が挙げられますが、2022年1月に同法が改正され、これによりタイムスタンプの要件についても緩和されることになりました。
電子帳簿保存法(電帳法)とは
電子帳簿保存法(電帳法)とは、各税法で原則紙での保存が義務づけられている帳簿・書類について、一定の要件を満たした上で電子データでの保存を認めた法律です。
電子データでの保存が認められるものについては、以下の3つが当てはまります。
①電子帳簿等保存(電子的に作成した帳簿・書類をデータのまま保存)
②スキャナ保存(紙で受領、作成した書類をスキャン文書で保存)
③電子取引(電子データでやり取りした取引情報の保存)
このうち「②スキャナ保存」と「③電子取引保存」については、タイムスタンプの付与が必要とされてきました。
(注)③電子取引データの保存については、企業の準備期間として2023年12月31日まで猶予されていましたが、2024年1月から完全に義務化されました。これは、電子データで受け取った電子書類を紙で出力し保存することは原則不可ということです。
タイムスタンプの要件が大幅に緩和
2022年の法改正により、タイムスタンプの要件について大幅に緩和されました。
タイムスタンプが不要になるケースとは
タイムスタンプが不要(免除)になる要件は、以下の2点です。
・訂正、削除を行った場合に、その記録が残るシステムを利用する場合
・訂正、削除ができないシステムを利用する場合
スキャナ保存におけるタイムスタンプの付与期間が延長
スキャナ保存した電子データのタイムスタンプ付与期間は「3営業日以内」でしたが、改正により、「最長2カ月+7営業日以内」までに延長されました。これによってタイムスタンプの付与手続きを行う担当者の負担も軽減されるようになっています。
スキャナ保存における自署が不要に
従来、電子書類のスキャナ保存において、受領者が請求書や領収書などをスキャンして読み取る際には自署が必要でした。しかし、改正によりこの自署は不要となりました。
電子帳簿保存法、改正の注意点
電子帳簿保存法の改正により、タイムスタンプの発行要件は大幅に緩和されましたが、全ての書類に適用されるわけではありません。注意しなければならないのは、データの改変ができないシステムやサービスを利用している場合のみ、タイムスタンプが不要になる点です。電子契約サービスには、認定タイムスタンプを採用していないシステムも存在するため、この条件を満たさない場合は、従来に引き続きタイムスタンプを発行する必要があります。
タイムスタンプを適正運用し、コンプライアンス強化
タイムスタンプが必要になる書類には、国税関係帳簿書類・決算関係書・取引関係書類が挙げられます。契約業務においては、「誰が」「いつ」「何の」契約を結んだのかを証明できる環境を整えることは大変重要です。
そもそも、電子的に作成した書類を発行する上で重要なのは、不正なデータの改ざんや変更を防ぐことです。これこそがタイムスタンプが必要とされる理由ですね。場面、要件に応じてタイムスタンプを適正に運用してコンプライアンスを強化し、業務効率化にもつなげていきましょう。